能の「翁」って神事!

YouTubeで能の「翁」を見ました。
正月初会や祝賀能などで行われる、「能にして能にあらず」といわれる別格の演目。

緊張感がすごいです。能楽師が行いますが、これは神事です。
これといったストーリーはなく、謡には呪文のような意味のわからないものもあります。

シテ  上「とうどうたらりたらりらたらりら
地   上「ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりどう
千歳  下「鳴るは滝の水。鳴るは滝の水日は照る
地   上「絶えずとうたり ありうどうどうどう
千歳  下「絶えずとうたり。常にたうたり (舞)

宝生流謡曲 翁

室町時代の能楽師で世阿弥の娘婿に当たる金春禅竹(こんぱる ぜんちく)が翁について書いた『明宿集』という秘伝書があって、それがすごい内容で驚かされました。

現代語訳が中沢新一氏の『精霊の王』に収録されています。その冒頭を以下に。

そもそも翁という神秘的な存在を探求してみると、宇宙創造のはじまりからすでに出現していたものだということがわかる。そして地上の秩序を人間の王が統治するようになった今の時代にいたるまで、一瞬の途切れもなく、王位を守り、国土に富をもたらし、人民の暮らしを助けてくださっている。

中沢新一『精霊の王』講談社、322頁

翁というものは神秘的なもので、私にはよくわかりませんが、この世界のあらゆるものに底通し、霊妙な働きを及ぼしている世界の根本のような存在なのかもしれません。

謡の文句に「鳴るは滝の水」とあるので、神聖な滝のもとか滝つ瀬の岸辺で神事を行っている格好なのかも。

滝

熊野地方の漁村出身の日系人たちが作っていたチキン・オブ・ザ・シー

マグロ油漬け缶詰は20世紀初頭のアメリカで発明されました。
その缶詰は鶏肉のように食べやすいことからチキン・オブ・ザ・シー(海の鶏肉)と名付けられました。

はごろもフーズが製造しているツナ缶のシーチキンという商品名は、このチキン・オブ・ザ・シーに由来します。

チキン・オブ・ザ・シーを作っていたのが、ロサンゼルス港の人工島ターミナルアイランドに住み着いた太地を中心とした熊野地方の漁村出身の日系人でした。男たちは海で漁師として働き、女たちは工場で魚をさばき缶に詰める作業に従事しました。

彼らは日米開戦により強制収容所に入れられ、ターミナルアイランドの日本人村も更地とされました。

終戦により解放された彼らはその後も大半はアメリカに住み続けました。

これらのことは、村井章介 監修、海津一朗 ・稲生淳 編著『世界史とつながる日本史 紀伊半島からの視座』の第23章、中西健「 クジラの町の移民から学ぶ国際理解」に書かれています。多くの和歌山県民に読んでいただきたい1冊です。

このような地域の移民の歴史を知ると、日本で働く外国人にも親しみを感じるようになります。地域の移民の歴史を学ぶことは、日本が多文化共生社会を築いていくうえで重要な取り組みであるように思います。

和歌山県民の一家に一冊は置いておきたいオススメ本! 『世界史とつながる日本史 紀伊半島からの視座』

『世界史とつながる日本史 紀伊半島からの視座』

村井章介 監修、海津一朗 ・稲生淳 編著『世界史とつながる日本史 紀伊半島からの視座』を購入しました。

この本は、和歌山県民が読めば胸が熱くなるような1冊です。
和歌山県内には存続が危ぶまれる市町村もありますが、今後も人が暮らしていける地域であり続けるためには何よりも地域住民の地域への誇りが必要です。多くの和歌山県民にこの本を読んでいただきたいと願います。和歌山県民の一家に一冊は置いておきたいオススメ本です。

和泉の国のかなたには、国をあげて悪魔に対する崇拝と信心に専念している紀伊の国なる別の一国が続いている。そこには一種の宗教団体が四つ五つあり、そのおのおのが大いなる共和国的存在で、いかなる戦争によってもこの信仰を滅ぼすことができなかったのみか、ますます大勢の巡礼が絶えずその地に参詣していた(『完訳フロイス日本史』四より)。

 ……
 日本の史料には、戦国時代の紀伊半島に「紀州惣国」という国家組織があり、一揆(団結)して自立していたと書かれる。……これこそ、世界史的に見れば「宗教共和国」だったわけである。……
 アジアの一角、日本列島には、ヘルシャフト(タテ関係主従制秩序)の織豊統一権力と、ゲノッセンシャフト(ヨコ連合秩序)の紀州共和制と、二つの異質な国家が対立しつつも共存していたのである。フロイスの目はそれをしっかり見抜いていた。

村井章介 監修、海津一朗 ・稲生淳 編著『世界史とつながる日本史 紀伊半島からの視座』ミネルヴァ書房、105-107頁、第9章、海津一朗「異国人の見た大航海時代の紀州倭寇」

織豊統一権力対紀州共和制の戦争なんて、「スターウォーズ」で言えば帝国軍対共和国軍です。紀州の宗教共和国連合を全国の民衆が信者として支えていました。映画やドラマにするなら紀州共和制側を主役にした方が今的にはカッコいいです。紀州共和制は残念ながら豊臣秀吉により滅ぼされてしまい、映画やドラマでも織田信長や豊臣秀吉が主役のものが多いですが。

『世界史とつながる日本史 紀伊半島からの視座』

2022年から高校では「歴史総合」という新科目が必修となります。近現代史を日本史と世界史を融合して学ぶ科目です。

日本史と世界史の総合とは、言うは易くして至難の課題に思える。だが、紀伊半島のように、地域の中の素材から世界史を学ぶことのできる所こそ、日本史と世界史の架け橋に他ならない。日本の変革期は紀伊半島から始まる。世界史につながる日本史は、紀伊半島でならば学べる、紀伊半島でしか学べない、と言えるかもしれない。

村井章介 監修、海津一朗 ・稲生淳 編著『世界史とつながる日本史 紀伊半島からの視座』ミネルヴァ書房、9頁 序章、海津一朗「なぜ 紀伊半島から世界史を考えるか」

太平洋に突き出た日本最大の半島である紀伊半島は前近代から世界と日本とをつなげてきた地域であり、今後、日本人は紀州の存在の大きさを歴史学習の中で知ることになるでしょう。